山梨経済同友会 山梨経済同友会

MENU

経済人のコラム 時局寸評

TOP 経済人のコラム(時局寸評) 富士山「世界文化遺産」登録

富士山「世界文化遺産」登録

 2013 年6 月22 日、第37 回世界遺産委員会(プノンペン)において、富士山が世界文化遺産に登録された。1993 年から20 年越しのを挙げての取り組みがついに結実した歴史的瞬間だった。

 当社も当初より「富士山を世界遺産とする連絡協議会」に協力、署名活動に参加し、その後も様々な活動を通じて登録実現を目指し積極的に取り組んできた。富士山麓の住民の一人として、国、山梨・静岡両県、市町村、関係機関、そしてご尽力くださったすべての方々に心より敬意を表するとともに感謝を申し上げたい。

 登録後初めての夏山シーズンが大きな混乱や事故もなく無事に終了した。心配された登山者数も山梨県側で1 万4 千人減の23 万人にとどまり急激な増加は避けられた。入山料の試験的徴収も10 日間実施され、両県で約6 割の登山者が応じ総額3,413 万円に達した。マイカー規制の期間延長も実現し、保全と永続的な活用に向け大きな成果と前進が認められた。

しかし、今後早急に議論すべき問題も山積している。

 一つは入山料問題である。
私は今年のように1 人1,000 円程度山頂を目指す登山者全員に求めていくべきだと思う。
しかし、誰から、何処で、いくら、どのように徴収すべきか、使途についても意見は分かれている。そもそも誰に徴収権限があり、強制出来るのかも不明である。1 人当たり1 万円であれば登山者が抑制され一石二鳥だという意見もあるが、受益者負担や環境保全寄付の概念である入山料と流入規制のためのハードルとしての賦課金は区別すべきであろう。
そもそも貴賤・貧富の区別なく、希望する者が登山できることが富士登山の良さであり、金額の多寡で差別することには違和感がある。

 夜間の登山を禁止すべきとの意見も強い。
勿論、五合目を夜出発し山小屋での宿泊や休憩をせずに山頂を目指す、所謂「弾丸登山」は危険で避けるべきだが、休憩を取り身体を気圧に慣らしながらゆっくりと登頂する伝統的な「夜登山」を廃することは、多くの方から登山の機会と選択肢を奪うことにもなりかねない。

 登山者の上限数の設定も慎重な議論が必要である。
前述のとおり今夏の登山者数はシーズン前の予想に反し前年を下回った。特に混雑が予想された休日の登山者数が減り、平日が増加する傾向が見られた。結果として登山者が1 万人を超えた日はわずか山梨県側で1 日だけとなり大幅に改善された。
とはいうものの今年の状況は、登山者の良識に基づく、言わば「結果オーライ」のようなものである。
早期に1 日当たり、そしてシーズンを通しての上限値、それぞれを様々な観点から徹底的に検討し設定すべきであろう。
希望する方が1 人でも多く安全に快適に山頂を目指すことが出来ることと環境保全の両立が望ましい。

 「その雄大さ、気高さにより、古くから人々に深い感銘を与え心のふるさととして親しまれ、愛されてきた(富士山憲章)」富士山を保全し、後世に美しく引き継ぐことが我々の責務である。

同時に富士山とその周辺地域は、地域の人たちにとり生活の場であり、年間3,000 万人を超える方々にとりレクリエーションや観光の場であり、素朴な大衆信仰の対象でもある。
つまり数百年に亘る日本独自の緩やかな共生が確立されているのである。

 我々はイコモス(ICOMOS=文化遺産保護に関わる国際的NGO)からの極めて合理的な指摘を咀嚼し、その上で、伝統を踏まえ、今後のあるべき姿を文字通り国民全体で議論し、日本人として富士山に為すべきこと、果たすべき責任、「千年の大計」を明確にしなければならない。

そしてその結果、引き続き世界遺産としてふさわしいと認められることが理想ではないだろうか。
それが、世界の宝としてユネスコからお墨付きを頂戴した「世界の富士山」を後世に美しく、正しく引き継ぐ道であると信じている。