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TOP 経済人のコラム(時局寸評) 人口減対策 集約型か拡散型か

人口減対策 集約型か拡散型か

 山梨県の人口は過去20年にわたって減少が続いているが、その間、都市構造はどのように変化したのであろうか。
日本銀行甲府支店は先月、県の都市構造の現状と課題、今後の方向性を整理した調査レポートを公表したので、概略をご紹介したい(詳細は日銀甲府支店のHPを参照)。

 近年、山梨県では人口減少が続く中で、住宅などの郊外立地が進むとともに、中心部の空洞化も同時に進行する形で、都市が拡散する現象が生じてきた。これは、自家用車の普及率が高まったことや、郊外の地価が中心部に比べ割安であったことなどが背景となっている。

 このように人口減少と都市の拡散が同時に進行した場合、①人口減少にもかかわらず、それに見合う形で行政コストが減少しない可能性が高い。②営業地域の周辺に一定の需要(人口)を必要とする卸・小売業やサービス業で収益性が低下し、事業所の撤退につながりかねない。③中心市街地の空洞化を一段と促進し、街としての活気が失われる。などさまざまな問題が生じることが想定される。事実、当県でも、こうした問題が顕在化している面が見受けられる。

 さらに先行きを展望すると、当県の人口減少テンポは、従来よりも加速する見通しにある。拡散した都市構造のもとで県内人口が見通しのように一段と減少した場合、財源や労働力の減少に伴い、各種インフラの維持が困難となったり、官民サービスが低下するなど、現状の都市機能を維持していくことが次第に困難になっていく可能性がある。
 山梨県がこうした事態に陥ることを回避し、今後も都市機能を維持しつつ魅力と活力を併せ持った地域としていくためには、人口の維持・増加に資する取り組みを引き続き推進していくとともに、人口が相応に減少する前提のもとでも持続可能な街づくりを進めていく必要がある。

 その際の対応の方向性としては、例えば、拡散的な都市構造の転換を図る観点から、地域ごとに集約的な街づくり(コンパクトシティー化)を進めることや、逆に拡散的な都市構造を前提として、情報通信技術などの活用により都市機能の維持に努めることが考えられる。

 もっとも、このうち集約的な街づくりについては、現状、実現に際してのさまざまな課題を抱えている。また、拡散的な都市構造を前提とした対応に関しても、多くの施策は今後の情報通信技術などの進歩を前提としており、現時点では実現可能性が高いとまでは言えない段階にある。

 こうした状況のもとで、今後、さらなる人口減少に対応していく過程では、いずれか一方の方向性のみにとらわれるのではなく、双方の得失を勘案しながら取り組んでいくことも考えられる。
例えば、将来の方向性として集約的な街づくりを目指す方針を掲げたうえで、短期間での実現は関係者の利害調整が難しい点を踏まえ、数十年単位で進める前提で具体的な施策を展開する。同時に、その実現までの間は、拡散的な都市構造のもとでの都市機能の維持に向けた各種施策を、技術の進歩を見極めながら、並行して実施していくことなどが考えられよう。

 いずれにしても、拡散的な都市構造のもとで人口減少がもたらす影響に関して認識を深め、適切な対応策を講じていく必要がある。
そのためにも今後、県内でこれまで進められてきた各種取り組みの成果も踏まえつつ、将来の街づくりに関する議論が一段と深まることが期待される。