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TOP 経済人のコラム(時局寸評) 大学が変わる、山梨を変える

大学が変わる、山梨を変える

2018年11月26日の文部科学省中央教育審議会答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」では、「質」と「多様性」が重要なキーワードとなり、これまでの「量的平等性」重視の改革から「質的多様性」尊重の改革への大転換が図られた。

つまり、各大学はその多様な理念・目的に基づき、学修者が「何を学び、身に付けることができるのか」という学修成果を自ら実感できるとともに、質的保証が確認できる大学の教育成果を積極的に社会に公表していくことが求められたのである。

その施策は、大学の内部質保証の確立のために2020年に策定・公表された「教学マネジメント指針」にも具現化され、大学レベル、学位レベル、授業レベルの3つのレベルにおける教育改善や大学運営を目指す初めての改革指針が示されることになった。


地域における高等教育のグランドデザインを目指して

 2019年12月18日に設立した国立大学法人山梨大学と公立大学法人山梨県立大学との一般社団法人「大学アライアンスやまなし」は、両大学が先の答申を受けて地域における高等教育のグランドデザインの実現をめざした取組であり、質的保証を把握・可視化するために学修者本位の教育の実現や大学の教育成果の発信、そして地域や社会のニーズに応えるという観点から教育研究の充実を図り、それぞれの強みや特色を生かした連携協力を行っていこうというものである。

そもそも両大学の連携協力に向けた話は、大学をめぐる情勢に対して両学長が危機感を共有し、ともに国立大学の統合・再編の経験者でもあり、日常的な交流の機会が多かったことから始まった。

「地域の中核、世界の人材」を標榜する山梨大学と、「地域を愛し、地域を育て、地域を繋げる」ことをスローガンに掲げる山梨県立大学との使命・目的が類似していたこと、そして甲府駅を挟んでキャンパスがほぼ等距離(2km)にあるという地理的な条件もあった。共通して地方創生のための国の大学COC事業やCOC+事業に取組み、また「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」(山梨大学)や「地方と首都圏の大学生対流促進事業」(山梨県立大学)などの地方貢献事業を推進していたことも拍車をかけた。

何よりも連携構想を促進させたのが、山梨県の長崎幸太郎知事の強いサポートであった。

2019年5月23日に、山梨県、山梨大学、山梨県立大学の三者による協定書を交わすことになった(写真)が、その目的は「地域を支える人材育成やイノベーションの進展に寄与するとともに、地域の発展に資すること」に置かれた。

また、協定書には、「国において検討が進められている大学等連携推進法人(仮称)制度の活用等を含めた連携」や「県内の他の高等教育機関等に波及させること」についても検討することが盛り込まれた。

一般社団法人「大学アライアンスやまなし」の設立に向けた準備は急ピッチで進められた。

両大学の理事6名による準備委員会及び総括準備事務室を立ち上げ、その下に両大学の教職員から成る5つの専門ワーキンググループ(後に質保証WGを追加)を設置した。そして定款作成、登記終了を経て2019年12月18日に山梨大学のキャンパスにおいて看板上掲式及び共同記者会見を実施したのである。

そして翌年の2020年1月27日には、多くの関係者の出席を得た記念式典も盛大に開催された。

新たな一般社団法人は、国の認可を得て日本初の大学等連携推進法人の誕生に結び付くものとして設立されたものである。

現在のところ、2020年11月には関係法令の改正を経て、大学等連携推進法人の申請が始まる予定で、国内第一号として「大学アライアンスやまなし」が大臣認定されることを目指している。

学生の最善の利益を最優先

 両大学の連携事業は、教育研究から業務運営まで多岐にわたって検討されている。

理系の強い山梨大学と文系の強い山梨県立大学の特色を生かしながら、大きく

  1. 教育資源の相互提供(教養教育、教員養成、幼児教育、看護教育、社会科学(観光分野))、
  2. 共同教育事業(幼児教育分野、看護教育分野)、
  3. 機能強化に向けた運営・業務の効率化(人事交流、合同研修、就職支援、物品の共同調達、施設・設備の共同利用)、

の3つの事業について具体化を進めている。

とくに1、2の両大学の強み・特色を生かした教育事業については、国の進める大学等連携推進法人による規制緩和(例えば、授業の共同開設による単位互換、共同教育課程の要件緩和、教職課程の共同運営)を視野に作業を進めている。

その際、理事会の下に教育の質保証に責任を有する「教育質保証委員会」の役割は大きい。

こうした連携可能な分野・領域の取組みは、スケールメリット、大学運営の効率化、組織のスリム化及び人材養成の高度化といった成果を期待するものであるが、何よりも大事にしている点が学修者である学生の最善の利益を最優先していることである。

「学生の最善の利益無くして改革はなし」である。

3つの基本的原理・原則

 国公私立大学の枠を超えた新しい連携推進法人制度は、50年に一度の大学設置基準の大綱化、100年に一度の国立大学の法人化に続く、150年に一度とも言える明治以来の大改革といってもいい。

従来の大学の枠組みを根本的に変えるものであり、長年続いてきた組織中心の考え方からプログラム中心の大学へと移行する革新的なものである。とはいえ、決してそれぞれの大学の存在そのものを否定するものではない。

一般社団法人設立にあたっては、次の3つの基本的原理・原則を守ることを約束している。すなわち、

  1. 各法人の自律性・独自性の堅持、
  2. 両大学のウィン・ウィンの関係、
  3. 他のモデルともなる先導的試行、

の3つである。
すでに上記の運営・業務の効率化については、人事交流、合同研修、共同調達、施設・設備の共同利用など可能なところから実行しているが、さらに大臣認可による規制緩和を活用しながら教育研究の共同事業を漸次開始していく予定である。

前例のない取組みでもあり難しい面もあるが、新しい大学の姿を追求し成功につなげたいと考えている。

わが国の大学史上画期的な取組みでもあり、高等教育研究者の一人としても国の思い切った制度改革を高く評価している。

※一般社団法人の詳細につきましては、以下のWebサイトをご覧下さい。

一般社団法人大学アライアンスやまなし
https://university-alliance-yamanashi.jp/

(初出 2020.5リクルート『カレッジマネジメント』第222号P30~32の内容(タイトルを含む)を本コラム用に一部修正)