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経済人のコラム 時局寸評

TOP 経済人のコラム(時局寸評) 「集中」「女性」で山梨の創生を

「集中」「女性」で山梨の創生を

 山梨県の人口は昨年、32年ぶりに83万人を下回った。前年よりはテンポが鈍化したとはいえ、1年間で5千人もの減少だ。

県外への転出が県外からの転入を上回る「社会減」に歯止めがかからないのが特に問題だ。

山梨県の社会減は、2010年からの累計で1万4千人近く、20代に限ると1万5千人にも及ぶ。50代後半~60代は、移住などで転入が転出を上回る状況(社会増)が定着しつつあるが、20代の転出が止まらない。婚姻・出産適齢期の若者を失うことで、少子化が加速し、さらなる人口減少につながっている。

転出は、ほとんどが就職を理由としている。
県の調査では、大学生が県内に就職しない理由として、「都会に住んでみたいから」との回答と並んで、「希望する就職先がない」とする人が多く、特に女性で目立つ。

県外への転出者は、どのような就職先を希望しているのか?
彼らの就職先を見ると、「卸売・小売業」「サービス業」「金融・保険業」といった第3次産業が上位に並ぶ。実際、山梨県からの就職に伴う、転出先トップ3の東京都、神奈川県、千葉県の産業構造は、第3次産業のウエートが高い。対照的に山梨県をはじめとする人口減少県は、軒並み低い。

第3次産業の多くは、サービス業など生活の利便性に直結するものだ。その発展は、街の魅力を高めることとなる。
そう考えると、山梨県でも第3次産業を発展させる必要がある。とはいえ、それは簡単ではない。第3次産業は、医療・福祉、教育、飲食、娯楽など、多くが地元で稼ぐビジネスであり、安易に誘致すると競争激化をもたらすだけとなるからだ。

鍵を握るのは、人口の集中だ。

第3次産業は、ほとんどが人を直接的に相手とする仕事だ。したがって、一定以上の人口(需要)が近接した商圏内に存在しないと、ビジネスとして成り立たない。
逆にいったん、ビジネスが成立するようになれば、労働集約的な産業だけに、従業員の定住により人口増加につながる。
人口の集中は労働生産性の向上をもたらし、賃金上昇につながる効果もある。
物流業を例にとると、人口密集地域では過疎地域と比べて配達効率が良いことは自明だろう。

ところが、人口密集地域の人口が全体に占める割合という基準で人口集中の度合いをみると、山梨県は全国で2番目に低い。5年前との比較でも集中度が低下している数少ない県の一つだ。

こうした状況が、第3次産業の発展を妨げている。
その結果、雇用機会が量的に不足するのみならず、労働生産性の低さを背景に賃金という質的な面でも、若年層の希望を満たす水準に達していない。

 ところで第3次産業の発展は、女性活躍とも密接に関係している。
第3次産業は、女性労働者が多く、管理職に占める女性の割合も高い。女性が活躍しやすい職場なのだ。
第3次産業の集積の遅れは、若年女性の目に、山梨の魅力のなさと映っている可能性があるだろう。
ちなみに人口集中の遅れは、婚姻率の低下にもつながる。
言うまでもなく、男女が会う機会が少なければ、恋愛は生まれないからだ。

人口集中を巡っては、山梨県でも「コンパクトシティー」の旗印の下でさまざまな取り組みが講じられてきたが、成果が十分に挙がっているとは言い難い。

その理由を検証し、他地域の成功例から学ぶことで、今後のさらなる取り組みにつなげてほしい。