経済人のコラム 時局寸評

観光情報発信に民間の知恵も~風林火山博を終えて~
1か月ほど前の1月20日、県民情報プラザで1年間にわたって開かれた”風林火山博”が閉幕した。このイベントはNHK大河ドラマ化「風林火山」に合わせ、全国的に山梨が注目される時に山梨の魅力を発信していくとともに、「山梨県民としての誇りや自信」という県民意識の醸成を図ることを目的に開催された。
中心市街地での開催は課題もあった。特に駐車場問題は切実で、期間中は県や甲府市の協力で乗り切ることができたが、今後の活性化に向けて、抜本的解決の必要性を実感した。そのような状況にもかかわらず、当初の有料入場者目標数20万人をはるかに上回る48万6千人のお客様を迎えることができ、県外の多くの人に山梨の素晴らしさを伝えるきっかけになったのではないかと思う。
今回のイベントは、次の2点を特徴として挙げることができる。
1点目は、運営組織が官民であったということだ。今までこの種のイベントは行政のみで運営されており、民間主導で行われた今回のイベントは、これまでに無い発想の中で、多くの入場者数につながった。全国のトラベルエージェントへ何回も足を運びお願いすることで、エージェントとの信頼関係が築かれたこと、観光親善大使とともに、各地の新聞社・テレビ局を訪ね、各社が大きく報道してくれたこと、また神宮球場でPRを行い、大手スポーツ紙に掲載されたことなど、民間の発想によって大きなPR効果が生まれた。
2点目は、このイベントが多くのボランティアの人々によって支えられたことだ。企業、歴史観光ガイド、自治体職員などの協力体制が、運営費削減につながった。
そして、それ以上に意義深かったのは、ボランティアを通して地域に貢献することの大切さをみんなで共有できたことだ。「やり遂げた」という達成感から良い意味での自負心が生まれた。私たちが住む山梨の魅力をPRすること自体、本来は楽しくやりがいのあることではないだろうか。そうであるならば、やり方によってもっと多くの県民が自信を持ち、まちづくりに参画していくことだろう。
山形県の花笠まつりや秋田県の竿灯まつりなど、1年前から本番に備え、祭りを待ち遠しく思う人々がいる。そんな祭りだから見る方だって楽しいはずだ。一方、信玄公まつりや甲府大好き祭りはどうだろうか。仕方なく参加するような雰囲気がないだろうか。県民の声、特に若い人の意見を上手に生かし、創意工夫するなら、もっと祭りは盛り上がるだろう。県民が楽しみながら参画できる環境をどう作り上げていくかは、行政のリーダーシップの下、まさに民間の知恵が活かされる時だ。
エージェント巡りをしたとき、担当者から、「山梨は素晴らしい素材がたくさんあるのにその魅力が伝わってこない」と異口同音に言われた。自然、果実、歴史文化、ジュエリー、ワイン、そんな魅力のある点を活かし、点と点をつないだ楽しめるゾーンづくりを官民が連携して行い、いかに情報発信していくか、今までにない発想が求められている。
そして同時に、観光関係者のみならず、地域の人たちもみんなでお迎えする心が何よりも大切だろう。旅先のその土地ならではの思い出、風景、郷土料理、地元の人たちとの温かい会話、そして笑顔・・・。そんな心の触れ合いの中から、山梨の素晴らしさを伝えることもできるはずだ。
今回、風林火山博を通して残念に思ったことがある。それは、行政においても、また民間においても、「誰かがやってくれるだろう」という人任せの雰囲気を感じた点だ。消費者(観光客)の視点に立つ中で、どのように工夫していくべきか自らが考え、行動することが大切だと思う。そして、観光業の内だけという狭い考えではなく、ほかの地域、ほかの業種とのさまざまな連携により、新たな視点で物事を多角的にとらえていく経営感覚が求められるだろう。
いまだ多くの宝が眠る山梨。その一つ一つを輝かせていくために、行政のリーダーシップのみならず、民間の意識改革の必要性もこの風林火山博は教えてくれた。