平成10年度 山梨経済同友会 通常総会提言1

山梨県の産業政策に関する提言(中間報告)
・・明日の山梨のために・・


 

山梨経済同友会産業政策委員会   
委員長 風間善樹
(1998年10月27日発表)





目 次

 はじめに

1.産業政策とは

2.山梨県に相応しい将来の産業構造

3.人知集約型企業の立地に関わる産業政策

4.具体的施策案


はじめに

 今という時に身を置きながら、歴史を想い、未来を語るのは人間のみに与えられた能力である。
 今春来、山梨経済同友会産業政策委員会のメンバーは、次の世代に引き継ぐべき山梨の姿について議論を重ねてきた。以下に掲げる提言は、政治的スローガンということではなく、そうした議論の中で出てきた一山梨県民としての産業政策に関する提案である。行政に携わる人も含め多くの県民の共感が得られれば幸いである。
 なお、これは中間報告であり、提言の中の具体的施策については、今後、更に論議を重ね内容の詰めや項目の追加を行っていく予定にある。


1.産業政策とは

 自由経済体制の下では、土地を耕す、物を作る・売る、労務を提供するといった営みは、個人や法人が自らの能力に応じて自己責任の原則に沿って行われることを基本としている。従って、公的介入である産業政策はあくまで私的な営みを補完するものであり、その役割は限定的なものに止まらなければならない。今後、新たに打ち出される産業政策はもとより、現行の産業政策についても、そうした観点から総点検を行い、不必要なものがあれば速やかに縮小ないし廃止することが望ましい。

・・産業政策は一般的に次の3つのタイプに分けられる

 第1は、個人や法人の自由な営みが環境汚染、社会的混乱など公益に反する事態を引き起こさないように必要なルール、罰則を定めること。これは、罰金収入こそあれ、財政支出を伴わない政策である。
 第2は、個人や法人の営みがより効率的、効果的に行える環境を整備する際、その整備された環境の受益者が特定できない、ないしは受益者から料金を徴収することに膨大な費用が掛かる場合、公的機関が税金を財源としてそうした環境整備を行うこと。具体的な事例としては、幹線道路、幹線通信網等の整備が挙げられる。しかし、これらについても、多々益々弁ずの世界に陥りやすいため、受益者負担の仕組みを部分的にでも導入し、施策の膨張に歯止めを掛けることが肝要である。
 第3は、個人や法人の営みを評価する市場が不完全なためその活動が過大ないし過少となる場合、それを是正すること。例えば、家庭から発生する過大なゴミの量を減らすためには、ゴミの不法投棄に対する罰則を厳格にするとともに、清掃当局のゴミ処理に従量制の料金を導入することが有効な施策となる(産業廃棄物では導入済み)。従量制料金の導入により、料金の節約を図る消費者は過剰包装の商品を嫌い、簡易包装の商品を選好するため、出荷者側でも簡易包装化への努力が促される。


2.山梨県に相応しい将来の産業構造

 山梨県経済は、昭和57年の中央自動車道の全線開通を契機に、電子・精密機械工業を牽引車とした高い経済成長を続けてきた。この間、農業においては、果樹栽培を中心に労働集約的な土地生産性の高い経営が展開されてきた一方、商業においては、店舗の大型化や流通経路の合理化等により経営の効率化が進められてきた。
 こうした産業構造は、山梨県経済を支えていく基本的な枠組みとして今後も大きく変わることはないと思われる。しかし、より高い付加価値を生み出す将来の戦略的産業を構想していく場合、これまでの産業政策を単純に延長していくことが適当かどうか再考する必要がある。
 県内在来企業での雇用機会が少なく、また労務コストも相対的に低かった時代においては、労働集約型の企業を山梨県に誘致することが山梨県民を豊かにする方法として確かに有効であった。手間暇の掛かる果樹栽培への傾斜も、農業従事者の大層が若かった時代には報いられる農業経営であった。しかしながら、今後の山梨県経済を取り巻く環境を考えると、県内労務コストの優位性喪失や農業従事者の高齢化は如何ともし難い与件であり、従って、これまでの産業政策を単純に延長することは成算が少ないと言わざるを得ない。
 産業発展史を振り返ると、そこには普遍的な流れがある。産業の発展とは、物質的素材に人間の知恵をより多く投入する・・人知集約の・・限りのない競争であった。より多くの人知が集約された製品、サービスが市場においてより高い評価を得て、そして、それに従事する者に富をもたらしてきた。今後、山梨県に更に富をもたらす営みは、そうした「人知集約型」企業の発展如何に依ると信じる。
 この企業群が具体的にはどのような業種に属するかという議論は余り意味がないように思われる。強いて言えば、形をなす製品では、グラム単位で売買されるようなものを製造する企業がこれに該当しよう。恐らく、そもそも形をなさない製品や独創的なサービスを生み出すような企業が中心になると想定すべきかと思う(バイオテクノロジー関連、情報処理関連、研究開発一般、デザイン研究所等)。


3.人知集約型企業の立地に関わる産業政策

 人知集約型企業は直接的には多くの雇用機会をもたらさないかもしれない。また、そうした産業には、県内に既にある企業が転換していくだけとは限らず、県外の企業が進出してくることも大いに想定される。しかしながら、そうした産業の存在は、喩えて言えば、「武田」という言葉がそうであるように、山梨県のイメージを形成する上では必ずや有効な役割を果たすことになろう。
 人知集約型企業を特徴付ける一つの側面は独創性にある。独創性は、言葉の定義により、個性的であり、群れることを好まない。従って、人知集約型企業を発展させるための環境整備は、そうした「人知」の主人公である個性的な人間が好む住環境を整備することが中核になる。
 洋の東西を問わず、自然環境と都会環境の調和に人は惹かれる。山梨県の地理的特性は、大都市東京に隣接しながら豊かな自然環境を残しているところにあり、これは将に、山梨県が人知集約型企業立地の有力候補地になり得ることを意味する。

5.具体的施策案

  1.  人知集約型企業の事業所建設はもとより、その従業員の住居建設に際して、県当局は、自然と調和した住環境作りを基本理念として、県有林の利用に関わる規制の思い切った緩和・整備を重点施策とする。一方、道路、電気、水道等ライフラインに関わるインフラ整備のコストについては、受益者負担の原則を貫き、長期的にみて県の財政負担として残らぬよう工夫する。
     なお、従来型の工業団地造成による企業誘致は人知集約型企業には馴染まない。国や県の制度・財政援助に沿った工業団地には行政的な制約が多いため企業の細かいニーズに応えられない。
  2.  農業・林業は、主に自然環境の保護・維持に貢献する産業として位置付けを改めた上で、農耕地、植林に対する財政援助を積極的に行う。その財源としては、例えば、道路建設紐付き財源となっている現行のガソリン税を「環境保護税」に衣更えにすることが適当と思われる。
     一方、農業・林業経営の効率化・高付加価値化を進めるためには、株式会社による農地・山林地の保有自由化、農業・林業経営の法人への委託、等の施策も合わせて重要と考える。
     
  3.  自然環境と都会環境の調和を実現するためには、交通・情報の面での基盤整備が不可欠な施策となる。具体的には、羽田、成田等にアクセスできるコミュータージェット機用の飛行場建設(例えば、釜無川河川敷)や高質かつ経済的な情報交流手段として「中央コリドー」を軸とした情報インフラの構築が最優先の課題として考えられる。こうしたアクセス手段がないと山梨県は単に豊かな自然を誇るだけの県に止まり、東京の持つ都会環境を最大限に利用できない。
  4.  個性的な生活を指向する人間は家族的な価値を大切にすることが多い。従って、人知集約型企業に従事する人を山梨県に移住させるためには、内容の充実した私立の初等・中等教育機関を県内に誘致することがもう一つの必要かつ有効な施策となる。
  5.  以上のような産業政策の趣旨および具体的な施策について、効果的な宣伝を行う。そのためには、宣伝の企画の段階から全面的に専門家に委任するとともに、思い切った財政資金をそれに投入することが不可欠と考える。


 山梨経済同友会産業政策委員会メンバー
 風間善樹(委員長)
 饗場紀典、出澤敏雄、今村義男、長田正三、小林寛樹
 高島昭英、高野総一、西田眞、野田建



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